認知症の中核症状
記憶障害
見当識障害
実行機能障害
失認
失行
失語
抽象思考·判断の障害
○記憶障害
「 最近のことから忘れる 」
これは、記銘力障害といい、
一時的に記憶したことを自分の
記憶の中に刻みつける作業が苦
手になるためです。
認知症の状態が進行し、体験し
た記憶がなくなることは、玉手
箱を開けた途端、突然、歳をと
ってしまう「 浦島太郎 」と同じ
なのかもしれません。
自分に歳を取った覚えがないの
に、気付いたら突然、時が経過
して、白髪になった姿を鏡で見
れば驚きます。うろたえ、どう
していいか分からないという心
の混乱が起こるのも無理はあり
ません。
○見当識障害
見当識とは、自分の生活状況
や、自分自信の存在を客観的に
正しく認識する精神機能のこと
です。
具体的には、
現在の年月や時刻、
自分がどこにいて、
誰と生活し、
誰と話しているかなどの
状況を把握する能力です。
認知症の方はこの機能が失われ
ていきます。見当識の力が衰え
ている認知症の方にとっては、
どこに行っても
「 知らない場所 」
「 知らない人達 」ばかりで、
さらに
「 時間さえ分からない状況 」に
陥ります。
そのため、たびたび不安感を覚
え、混乱するようになるので
す。これが記憶力の衰えと結び
付くと、聞かされたこともすぐ
に忘れてしまうため、何度も同
じことを繰り返し質問するよう
になります。
○実行機能障害
実行機能とは、計画して準備し
ていく能力で、いわゆる段取り
能力といいます。
実行機能の力が衰えると、段取
りを組んで行動することが苦手
になり、次に何をしたらよいの
かもすぐには分からなくなって
きます。
長年料理をしてきた人は、1つ
ひとつの動きにおいて、高い技
術を身に付けていますが、どの
順番でその力を発揮したらした
らよいのか見当がつかず途方に
くれ、結果として料理が作れな
くなります。
当たり前に出来ていたことが
出来なくなるのです。
これは料理に限らず、日常的な
行為全般に及びます。認知症の
症状が出る前は、いちいち考え
ることなくスムーズに出来てい
たことも、その都度、次にする
ことを確認する必要が生じま
す。そのため、迷いも多くな
り、物事にとり組むスピードが
遅くなります。
また、1つのことを考えると、
他に気を配ることが
できなくなります。
食器を洗いながら、
鍋で湯を沸かすなど、
2つ以上のことを同時に
行うことが難しくなります。
○失認
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚
などの、感覚に関する機能に異
常はなく、機能が損なわれてい
ないにもかかわらず、対象を正
しく認識できなくなることをい
います。
言葉や文字をは見えて
いるのに、言葉や文字に何か意
味があるという認識ができない
症状を指します。
人間は目や耳といった感覚器か
ら伝わる情報を脳が解釈するこ
とによって、「 それが何か 」を
認識します。
したがって、脳の神経細胞が損
傷を受けていれば、脳が解釈す
る時点で「 それが何か 」を認識
できなくなります。
感覚として伝わっていても、
脳で解釈する段階で
「 それが何か分からなくなる 」
のが失認です。
例えば、「 トイレ 」と書かれて
いても、脳が違う文字、あるい
は違うデザインと解釈すれば、
「 トイレ 」とは読めず、情報を
認識できないことになります。
○失行
運動機能は正常で、行うべき動
作を理解しているにもかかわら
ず、意味のある動作ができなく
なる状態です。
「 歯を磨いて 」と
歯ブラシを手渡されたとき、
歯ブラシを「 歯を磨くもの 」と
把握していながら、
いざ使おうとすると、
歯ブラシを耳にいれてしまうの
は、失行の一例です。
失認によって失行も起こりやす
くなります。
例えば、
「 上着 」を「 ズボン 」だと
脳が解釈すれば、
その人は上着を
足からはこうとします。
これは失認を起こしているた
め、正しく服を着ることができ
ない( 着衣失行 )、つまり先行を
引き起こしたのです。
○失語
聴く、話す、読む、書くといっ
た言語機能が傷つき、言葉の理
解ができないことです。
伝えたいと思ったことを
どんな言葉で表現すれば
よいのか思いつかなくなる、
人から言われた言葉が
何を意味しているのか
分からなくなる、
文章を考え付かなくなる
などの状態です。
失語の症状が表れると、
トイレに行きたいと思っても
「 トイレ 」という言葉が
思い付かない、
人から「 トイレにどうぞ 」と
言われても、
「 トイレ 」という言葉が
意味するイメージがわからない
ということが生じます。
○抽象思考·判断の障害
認知症では物事の抽象的な理解
力や、状況の判断力も衰えてき
ます。
お金の計算力の衰えです。
お金を払おうとしても、
100円玉を何枚、
10円玉を何枚、
1円玉を何枚
出せばよいのか
わからなくなり、
財布にお金があっても
支払うことができずに、
もじもじしてしまいます。
状況の判断力が衰えると、
予想外のことが起きた場合に、
とっさの判断ができず、
混乱を招きます。
困っていても、
誰かの助けを借りるという
判断も思いうかびません。
自分で何とかしようと
意地をはることによって、
状況をますます悪化
させてしまうのです。
さまざまな中核症状により、
認知症の方は、
日々の生活を送る上で
困惑することが多くなり、
困難を感じる場面が
ふえていきます。
初めのうちは
何とか自分の力で
困難に向き合い、
乗り切っていきますが、
症状が進行すると、
自分1人の力で
乗り切ることは容易では
ありません。
よって、
支援の手が
必要になってくるのです。